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「田沼意次」19.04.09 [歴史のこと]

 藤田まことの「剣客商売」でおなじみの田沼意次、

俳優平幹次郎氏の好演もあってそのイメージは決して悪くない。

そして出演していた意次の娘「みゆき」が実際に存在していたのかどうかまことに怪しい。

どうせどこかの外腹で産ませた娘であろうが、あの剣客ぶりはまことに重要な役だ。

藤田まことの演じていた秋山小助の次男として大二郎なるせがれと後に大二郎の嫁になるみゆき、

話の中では男児も及ばぬ凄腕の剣客として登場している。

我々はあの平幹次郎氏の好演で、田沼意次とはどれほどの大名であったのか、

その実態とはかけ離れた人物を想像するばかりである。

当時田沼と聞けば泣く子も黙る権勢をふるっていた。

そして先年亡くなった海音寺潮五郎氏は日本の歴史上の人物なついて、

武将列伝と悪人列伝の二種類を書き残している。

がその悪人列伝の方にはかの田沼意次が挙げられているのだ。

本来ならば治世家として善人の方に連ねられなければならない漢だが、

いかに田沼が悪逆非道賄賂付けだったか詳細に残されている。

後に権勢並ぶものなし言われた田沼意次、しかしその出処は必ずしも明らかでない。

一説には沼を田にしたので田沼と名乗ったとか、

出所はもともと藤原氏の末裔で、かの田原の藤太の末裔であるがごとき言い伝えがある。

しかしこれとて確かな証拠があるわけではない。

兎に角出処はあまりはっきりしない男むであることには違いはない。

そしてかの関ヶ原では三成側に味方し、形勢不利と見るや徳川方に寝返ったとも伝えられる。

時代は下って八代将軍吉宗の代になると、

意次の父意行(もとゆき)に連れられてまだ紀州藩主吉宗であった頃、

その子の家重の中小姓として仕える。

そして吉宗が8代将軍となると意次の運命も変わる。

それから9年たって享保9年10月従5位下主殿頭(とのものかみ)に叙任する。

そしてその吉宗も47歳で他界する。

そして9日代将軍家重の代になる。

があれだけ吉宗が重用したのだから、相当できる男だろうと目を付けられ益々重用されることになる。

そして益々重用されるる。

世に田沼時代という時代の幕開けである。

その権勢を使って彼は日本の賄賂文化の創設者と言われるほど賄賂で私服を肥やした。

そして幕府の専売として、銅、鉄。真鍮、朱、人参、竜脳、明礬、石炭、硫黄、燈油などを全て専売制にした。

つまりすべて幕府の許可なくしては商売できなくしてしまったのだ。

しかもそれぞれに利権が付く、その許可を得る権限は田沼が一手に握っている。

我も我もと田沼様に取り入ろうと贈賄の洪水が起こる。

ただ田沼の不評は天然災害の部分もある。

天明3年8月浅間山が大爆発を起こした。

死者3万5千人あまり、被害地では45年間耕筰ができなかったという。

人々が飢えに飢えたる上に飢えたのはまちがいない。

それに対する手当の希薄も悪評の一員となっている。

かくてあまりの収賄に皆から恨みに恨まれ、

あまりの収賄ぶりをついに16条の訴状が訴えられた。

そのころ家重は老中政治ではなかなか自分の意思が通らない、

かくて側近政治に持ち込みたかった、

かの五代将軍綱吉のころ柳沢吉保を御側用人に仕立てたように、

側用人に権限を集中させ、思うように政治を任せた。

田沼はその権限を思う存分使って、収賄政治を行った。

後に16条の訴状があまりのあくどさに周囲から不満の声がふつふつと上がり、

ついに息子の意知(おきとも)が親の権威を笠にのさばるようになった。

ある時将軍が鷹狩りに出てその時佐野善左衛門が鷹を撃ち落とした。

その手柄を意知が横取りした。

そのことの恨みが残りその子意知が暗殺される。

田沼家を継ぐ長男が暗殺されたのだ。

意次の落胆はいかばかりであっただろうか。

でもその意知の葬儀がまともに出せない、田沼への恨みがその子意知に移り、

あちこちから投石され這う這うの体で逃げ帰るような始末である。

意次の治世はその後1年半も続くが、不運はその後も続く、

いやその死後も意次への厳罰は続く、3万7千石の領地は取り上げになり、

相良の城は召し上げになる。そして意次は別邸に蟄居を命じられ、

そして孫の竜佑に1万石の領地を与えられる。

しかしこれほど日本の歴史上、九天の天国から九地の地獄に叩き落された人物も珍しい。

しかし意次の事はまだまだ書き足らないところが多く、これはその行状記の一部でしかない。



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